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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)9205号 判決

主文

一、原告両国興業株式会社と被告趙純との間で、別紙第一目録記載(3)の建物が同原告の所有であることを確認する。

二、被告趙純は、原告両国興業株式会社に対し、別紙第二目録記載(ホ)の登記の抹消登記手続をせよ。

三、原告両国興業株式会社と被告株式会社第一相互銀行との間で、別紙第二目録記載(ヘ)(チ)(タ)(ソ)(ネ)(ラ)(ウ)の各根抵当権の存在しないことを確認する。

四、被告株式会社第一相互銀行は、原告両国興業株式会社に対し、別紙第二目録記載(ヘ)(チ)(リ)(ヌ)(タ)(ソ)(ネ)(ラ)(ウ)(ノ)の各登記の抹消登記手続をせよ。

五、原告両国企業株式会社の請求をいずれも棄却する。

六、訴訟費用中、原告両国企業株式会社と被告との間に生じた分は全部同原告の負担とし、原告両国興業株式会社と被告らとの間に生じた分は全部被告らの負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

一、原告ら

A  原告両国企業株式会社(以下単に原告両国企業という。)

(一)原告両国企業と被告趙純との間で、別紙第一目録記載(1)の土地および同記載(2)の建物が同原告の所有であることを確認する。(二)被告趙純は、原告両国企業に対し、別紙第二目録記載(イ)(ル)の各登記の抹消登記手続をせよ。(三)原告両国企業と被告株式会社第一相互銀行との間で、別紙第二目録記載(ハ)(ト)(ワ)(ヨ)(レ)(ツ)(ナ)(ム)の各根抵当権の存在しないことを確認する。(四)被告株式会社第一相互銀行は、原告両国企業に対し、別紙第二目録記載(ロ)(ハ)(ニ)(ト)(ヲ)(ワ)(カ)(ヨ)(レ)(ツ)(ナ)(ム)(ヰ)の各登記の抹消登記手続をせよ。(五)訴訟費用は、被告らの負担とする。

B  原告両国興業株式会社(以下単に原告両国興業という。)

主文第一ないし第四項、第六項後段同旨

二、被告趙純

(一)  原告らの請求を棄却する。(二)訴訟費用は、原告らの負担とする。

三、被告株式会社第一相互銀行(以下単に被告銀行という。)

(一)  原告らの請求を棄却する。(二)訴訟費用は、原告らの負担とする。

(原告らの主張)

一、別紙第一目録記載(1)の土地および(2)の建物(以下単に(1)の土地または(2)の建物という)は原告両国企業の所有、同(3)の建物(以下単に(3)の建物という)は原告両国興業の所有であるが、昭和二九年一一月三〇日、原告らの代表取締役田島一郎と被告趙純との間に右各物件を後記のごとく債権担保のため同被告に譲渡する契約が成立した。これに基き被告趙純のために(1)の土地及び(3)の建物については別紙第二目録記載(イ)(ル)の所有権移転登記、(2)の建物については同記載(ホ)の所有権保存登記(譲渡当時未登記であつたので)がなされており、その後、被告株式会社第一相互銀行のために、(1)の土地および(2)(3)の各建物について、同記載(ロ)(ハ)(ニ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(ヌ)(ヲ)(ワ)(カ)(ヨ)(タ)(レ)(ソ)(ツ)(ネ)(ナ)(ラ)(ム)(ウ)(ヰ)(ノ)の各根抵当権設定登記、所有権移転請求権保全の仮登記および賃借権設定請求権保全の仮登記がなされている。

二、右契約は、原告らの共同代表取締役の一人田島一郎こと陳克譲(以下単に田島という。)が単独で原告らを代表してしたものであるが、当時、原告両国企業には代表取締役田島、同須藤孝子こと陳孝子(以下単に須藤という。)、同三好明の三名が共同して会社を代表すべき定めがあり、原告両国興業にも代表取締役田島、同須藤、同近藤信子の三名が共同して会社を代表すべき旨の定めがあつたが、右田島は他の代表取締役からその代表権の行使について包括委任されていた関係上単独で前記契約を締結したもので、これは商法第二六一条第二項に違反するので右契約は原告らに対していずれも効力を生じない。

すなわち株式会社において共同代表の定めがある場合には、代表取締役全員が共同してのみ会社を代表しうるのであつて、その制度の目的は、会社代表権の行使を慎重にし、代表取締役相互間の牽制によつて代表権の濫用を防止して会社財産を保護することにあるから、共同代表取締役が他の共同代表取締役に対し、自己の代表権を包括的に委任することはもとより、特定の行為を委任して代理させることもその目的と本質に反するものである。

従つて右各物件の所有権はいぜん原告らにある。

三、仮りに右主張に理由がないとしても、前記各物件の譲渡契約は後記(一)ないし(三)の三通の約束手形の債権担保のためになされたものであるが、これらの手形はいずれも田島が単独で原告両国企業を代表して振り出したものであるから無効であり、手形金債権は発生しない。しかるに田島は錯誤により手形金債権が発生したものと誤信し、これを担保するために右譲渡契約を締結したものであるから田島の意思表示は法律行為の要素に錯誤ある無効のものである。

(一)  金額一、〇〇〇万円 振出日昭和二九年一二月一日、満期 昭和三〇年一一月三〇日、振出地 東京都墨田区、支払地 東京都千代田区、支払場所 被告銀行。

(二)  金額 一八〇万円、振出日 昭和二九年一二月三〇日、満期 昭和三〇年一月二八日、その他前同。

(三)  金額 一七〇万円、振出日 昭和三〇年一月二〇日、満期 同年二月一八日、その他前同。

以上のように、本件不動産の所有権は被告趙に移転しないので、同被告のためになされた前記所有権移転登記ないし、保存登記は実体上の権利関係に合致しない無効のものであり、また、同被告が被告銀行と抵当権設定契約を締結したとしてもそれによつて抵当権が発生するに由なく、その登記もまた無効たるを免れない。

四、被告らはこれらの不動産の所有権が原告らに帰属することを争うので、原告両国企業は、被告趙純に対し、別紙第一目録記載(1)の土地および(2)の建物が同被告の所有であることの確認およびその所有権にもとずき同第二目録(イ)(ル)の各登記の抹消登記手続を求め、被告銀行に対し、同目録記載(ハ)(ト)(ワ)(ヨ)(レ)(ツ)(ナ)(ム)の各根抵当権が存在しないことの確認および同(ロ)(ハ)(ニ)(ト)(ヲ)(ワ)(カ)(ヨ)(レ)(ツ)(ナ)(ム)(ヰ)の各登記の抹消登記手続を求め、また原告両国興業は、被告趙純に対し、別紙第一目録記載(3)の建物が同原告の所有であることの確認および同第二目録記載(ホ)の登記の抹消登記手続を求め、被告銀行に対し、同(ヘ)(チ)(タ)(ソ)(ネ)(ラ)(ウ)の各根抵当権の存在しないことの確認および同(ヘ)(チ)(リ)(ヌ)(タ)(ソ)(ネ)(ラ)(ウ)(ノ)の各登記の抹消登記手続を求める。

五、被告ら主張の権利濫用ないし信義則違反の抗弁は争う。

原告らはいずれも田島の個人会社ではなく、この点に関する被告らの主張は、会社の人格とその代表者個人の人格とを混同するものであつて、共同代表の制度の目的は前記のとおりであるから原告らの本訴請求は権利の濫用でも、信義則に違反するものでもない。

(被告らの主張)

一、請求原因第一項記載の事実(契約成立の時期を除き)は認める。

二、被告趙は昭和二九年一二月一日、原告らの代表取締役と原告両国企業から(1)の土地及び(2)の建物を代金合計一、四六二万円をもつて、また原告両国興業から(3)の建物を代金二五八万円をもつて買受ける旨の契約を締結したものである。

尤も、原告らの代表取締役は原告ら主張の三名であり、いずれも共同代表の定めがあつたことは認めるが、右譲渡契約の締結に関し両国企業においては田島と須藤の二人が代表してこれにあたつたが、内部的には三好を含む三名の代表取締役全員の合意が成立しており、田島らはこの合意にもとづいて契約を締結したものであるから共同代表行為は有効に成立している。両国興業においては、田島、須藤、近藤の三名が共同して本件譲渡に関与したものである。

三、(一) 仮りに、共同代表について原告らのような見解をとりうるとしても、それは名実ともに株式会社の実体を具えた企業体についてのみ妥当するものである。しかるに原告会社はいずれも田島一郎の個人会社で他の代表取締役たる須藤および近藤はいずれも田島の内縁の妻、三好はかつての田島の内妻の連れ子で同人に養育されていたいわば同人の義理の子であり、会社の経営は事実上田島が独断専行しているものである。このような株式会社において共同代表の定めをしてもそれは名のみで代表取締役間の牽制などということは到底期待しうべくもえないのであるから、他の代表取締役から委任を受けた田島の単独代表行為は有効というべきで無効を主張することは許されない。

(二) また原告ら(実質は田島個人)は本件不動産の譲渡によつて融資を受けて利得していたにもかかわらず、その後不動産が値上りしたことにより、共同代表制を悪用して本件物件を取り戻そうとしているもので、本訴のような抹消登記の請求は信義則に反し許されるべきではない。

(証拠関係)(省略)

別紙

第一目録

東京都墨田区東両国弐丁目拾九番参

(1) 宅地四百坪七合七勺

同区東両国弐丁目拾九番地家屋番号同町拾九番四

(2) 木造瓦葺弐階建映画館壱棟

建坪百拾弐坪八合弐階弐拾七坪七合

同区東両国弐丁目拾九番地家屋番号同町拾九番参

(3) 木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建遊技場壱棟

建坪六拾七坪

別紙

第二目録

東京都墨田区東両国弐丁目拾九番参

(1) 宅地四百坪七合七勺

同区東両国弐丁目拾九番地家屋番号同町拾九番四

(2) 木造瓦葺弐階建映画館壱棟

建坪百拾弐坪八合弐階弐拾七坪七合

同区東両国弐丁目拾九番地家屋番号同町拾九番参

(3) 木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建遊技場壱棟

建坪六拾七坪

(イ) 右(1)の宅地登記甲区五番に昭和弐九年拾弐月壱日受付第弐九五八九号を以て被告趙純の為め為された所有権取得登記

(ロ) (1)の宅地登記甲区六番に昭和参拾年参月参日受付第四壱七七号を以て甲区七番に昭和参壱年五月弐参日受付第壱弐九七〇号を以て何れも被告銀行の為め為された所有権移転請求権保全の仮登記

(ハ) (1)の宅地登記乙区七番に昭和弐九年壱弐月六日受付第弐九九七五号を以て被告銀行の為め為された債務者を堀本進とする債権極度額金壱千万円の根抵当権設定登記

(ニ) (1)の宅地登記乙区八番に昭和弐九年壱弐月六日受付第弐九九七六号を以て被告銀行の為め為された賃借権設定請求権保全の仮登記

(ホ) (3)の建物登記甲区弐番に昭和弐九年壱弐月壱日受付第弐九五九〇号を以て被告趙純の為め為された所有権取得登記

(ヘ) (3)の建物登記乙区壱番に昭和弐九年壱弐月六日受付第弐九九七五号を以て被告銀行の為め為された債務者を堀本進とする債権極度額壱千万円の根抵当権設定登記

(ト) (1)の宅地登記乙区九番及び(2)の建物登記乙区参番に昭和参拾年参月参日受付第四壱七六号を以て被告銀行の為め為された債務者を石井隆とする債権限度額弐百万円の根抵当権設定登記

(チ) (3)の建物登記乙区四番に昭和参〇年参月参日受付第四壱七六号を以て被告銀行の為め為された債務者を石井隆とする債権極度額弐百万円の根抵当権設定登記

(リ) (3)の建物登記甲区六番に昭和参拾年参月参日受付第四壱七七号を以て被告銀行の為めに為された所有権移転請求権保全の仮登記

(ヌ) (3)の建物登記甲区七番に昭和参壱年五月弐参日受付第壱弐九七〇号を以て被告銀行の為め為された所有権移転請求権保全の仮登記

(ル) (2)の建物登記甲区壱番に昭和弐拾九年拾弐月弐八日受付第参弐七五九号を以て被告趙純の為め為された所有権の登記

(ヲ) (2)建物登記甲区四番に昭和参拾年壱月八日受付第壱九九号を以て、甲区五番に昭和参拾年参月参日受付第四壱七七号を以て、甲区六番に昭和参壱年五月弐参日受付第壱弐九七〇号を以て夫々被告銀行の為め為された所有権移転請求権保全の仮登記

(ワ) (2)の建物登記乙区壱番に昭和参拾年壱月八日受付第壱九八号を以て被告銀行の為め為された債務者を堀本進とし債権限度額五百万円とする根抵当権設定登記及び債務者を堀本真澄と変更した壱番附記壱号登記

(カ) (2)の建物登記乙区弐番に昭和参拾年壱月八日受付第弐〇〇号を以て被告銀行の為め為された賃借権設定請求権保全の仮登記

(ヨ) (1)の宅地登記乙区拾番及び(2)の建物登記乙区四番に昭和参拾年四月弐八日受付第九八〇弐号を以て何れも被告銀行の為め為された債務者を石井隆とし債権限度額弐百万円とする根抵当権設定登記

(タ) (3)の建物登記乙区五番に昭和参拾年四月弐八日受付第九八〇弐号を以て被告銀行の為め為された債務者を石井隆とし債権限度額金弐百万円とする根抵当権設定登記

(レ) (1)の宅地登記乙区拾壱番及び(2)の建物登記乙区五番に昭和参拾年五月弐壱日受付第壱壱六七五号を以て被告銀行の為め為された債務者を田宏仁とし債権限度額金弐百万円とする根抵当権設定登記

(ソ) (3)の建物登記乙区六番に昭和参拾年五月弐壱日受付第壱壱六七五号を以て被告銀行の為め為された債務者を田宏仁とし債権限度額金弐百万円とする根抵当権設定登記

(ツ) (1)の宅地登記乙区拾弐番及び(2)の建物登記乙区六番に昭和参壱年五月弐参日受付第壱弐九六七号を以て何れも被告銀行の為め為された債務者を周知福とし債権元本極度額金四百万円とする根抵当権設定登記

(ネ) (3)の建物登記乙区七番に昭和参壱年五月弐参日受付第壱弐九六七号を以て被告銀行の為め為された債務者を周知福とし債権限度額四〇〇万円とする根抵当権設定登記

(ナ) (1)の宅地登記乙区拾参番及び(2)の建物登記乙区七番に昭和参壱年五月弐参日受付第壱弐九六八号を以て被告銀行の為め為された債務者を叢樹夢とし債権元本極度額金弐百万円とする根抵当権設定登記

(ラ) (3)の建物登記乙区八番に昭和参壱年五月弐参日受付第壱弐九六八号を以て被告銀行の為め為された債務者を叢樹夢とし債権元本極度額金弐百万円とする根抵当権設定登記

(ム) (1)の宅地登記乙区拾四番及び(2)の建物登記乙区八番に昭和参壱年五月弐参日受付第壱弐九六九号を以て何れも被告銀行の為め為された債務者を渡部政次とする債権元本極度額金四百万円の根抵当権設定登記

(ウ) (3)の建物登記乙区九番に昭和参壱年五月弐参日受付第壱弐九六九号を以て被告銀行の為め為された債務者を渡部政次とする元本極度額金四百万円の根抵当権設定登記

(ヰ) (1)の宅地登記乙区拾五番及び(2)の建物登記乙区九番に昭和参壱年五月弐参日受付第壱弐九七壱号を以て何れも被告銀行の為めに為された賃借権設定請求権保全の仮登記

(ノ) (3)の建物登記乙区弐番に昭和弐九年拾弐月六日受付第弐九九七六号同区拾番に昭和参壱年五月弐参日受付第壱弐九七壱号を以て夫々被告銀行の為めに為された賃借権設定請求権保全の仮登記

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